BMW M4 GTS
 BMW M4が世界最高峰のスポーツカーであることに異議を唱える人はいないだろう。しかし、そのスパルタンさに不満を覚える人はいるかもしれない。モータースポーツ車両の研究・開発そして生産をルーツとする『BMW M』社が開発したM4はレーシングマシン直系であり走行性能も官能性能もきわめて高いといえるが、残念なことに競技車両用に戦闘力を誇示するオーラや荒々しい乗り味と危険な香りは持ち合わせていない。しかしそれは、日常性能まで視野に入れて開発された車両としては当然のことともいえる。


 だから通常のM4ではまだまだ刺激が足りないという人もいるはずだ。そんな人にお勧めしたいのが、2015年秋の東京モーターショーでワールドプレミアされた『M4 GTS』である。

BMW M4 GTS
 エアロパーツやルーフにCFRP(カーボンファイバー強化樹脂)を組み合わせて軽量化したボディ(本来はボンネットフードもFCRP製だが日本の歩行者保護要件適合のため日本仕様はアルミ製)、69馬力もの出力アップを得て500馬力へ引き上げられた3リッターの直列6気筒ターボエンジン、そしてサーキット走行を最優先して締め上げたサスペンション。M4標準車から『GTS』への変更部分は多岐にわたる。しかしボクが何よりも驚かされたのは、戦闘力の高さを感じさせる圧倒的なオーラだ。


 ちょっとした段差でも簡単に擦りそうなフロントバンパー下のスプリッター(本来は調整式だが日本仕様は法規の関係で固定式となっている)、見るからにダウンフォースを発生しそうなCFRP製の翼にアルミのステーを組み合わせた角度調整式リヤウイング、そして異様に落とされた車高。数々のバトルで勝利を収めてきた戦うチューニングカーのような雰囲気を、このM4 GTSは生まれながらにして持っているのである。目立つという意味ではスーパーカーとも同等だが、スーパーカーがハリウッドスターだとすればこちらは武闘派で格闘技の選手のような存在感だ。もの静かだが目は殺気立っている。



 インテリアを見ると「普通じゃない感」はさらに強まる。リヤシーターのない2ドアモデルというのは序の口で、「クラブスポーツ・パッケージ」が標準装備となる日本仕様はオレンジ塗装のロールバー、リクライニング調整さえできないモノコック構造のカーボン製フルバケットシート、6点式シートベルト、さらには消火器ホルダーまでも搭載。さらにはセンターコンソールボックスが外されたりドアトリムもドアポケットがなくインサイドドアハンドルの代わりにストラップが用意された軽量素材の専用品(重量50%低減)を装着するなど、スパルタンさに驚く人はいないだろう。正規モデルとして販売されるのが信じられない徹底ぶりである。

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 しかし、インテリアは単にスパルタンに徹するだけではなくアルカンターラやレザーをふんだんに使うなど贅を尽くした仕上げなのもお伝えしたい。硬派ながら上質さも持ち合わせている武闘派なのだ。


 もうひとつ面白いのは、先進テクノロジーだ。たとえばエンジンは従来の燃料冷却に代わる新技術としてボッシュが開発した水噴射システム(サージタンクに水を噴射して気化で熱を奪わせてシリンダー内の温度を下げる)を採用。ノッキングを抑えて高出力化に貢献し、また燃費の向上にも役立っている(ちなみに水タンクはトランク下に設置され定期的に蒸留水を補充する必要がある)。テールランプも標準M4とは異なり、光源を「点」ではなく「平面」として均一に発光するオーガニックLEDを採用。いずれも量産車としては世界初の技術であり、標準車に先んじて実験的な先行投入をおこなうMモデルらしい仕立てと言えるだろう。

 走りはある意味、その見た目の雰囲気からイメージできる予想通りだ。つまり、期待を裏切らない激しさでドライバーを迎えてくれる。

BMW M4 GTS
 エンジンをかけると、チタン製のエキゾーストノートは明らかに近所迷惑な野太い排気音を放ちドライバーを歓迎。それも高性能車にありがちな「演出ですけど何か?」的な遠慮がちな音ではなく、「俺の音を聞け」と言わんばかりの荒々しさがなんともレーシーだ。

BMW M4 GTS BMW M4 GTS
 走り出すと7速DCTは素早くシフトアップしていく。しかし明確なシフトショックを感じ、また極低速域などではギクシャクすることもあってどう褒めようと思っても乗員(特にドライバーではなく助手席に座る人)は快適とは言い難いのは事実である。これはGTSのために加速性を重視した制御になっている影響だ。しかし刺激を求めるためにクルマを運転するのであれば、絵に描いたような「獰猛さ」をドライバーに感じさせ、気分を高ぶらせてくれる演出となってくれるのは間違いない。そんなドライバーにとって不快かと言えば、答えはもちろん「NO」だ。

BMW M4 GTS
 ハンドリングはあくまでシャープで、ステアリングを切り始めた瞬間からノーズが向きを変えてグイグイ曲がっていく。カミソリに例えるならノーマルのM4が3枚歯だとすれば、GTSは5枚歯くらいの切れ味といっていい。シャープに向きを変える感覚はBMWらしい乗り味のひとつだが、GTSはその"らしさ"がより強調されていると強く実感できる。

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 そして真骨頂はやはり、アクセルを踏み込んだときのエンジンだ。6250回転で368kW(500ps)、そして4000~5500回転で600Nm(61.2kgm)のトルクを発生するエンジンの高回転の圧倒的なパワー感、そして放たれたアクセル全開時の鋭いレスポンスは昇天しそうな爽快感だ。加速時はあっという間に、そして次々とレブカウンターの針がレッドゾーンに近づく。この鋭さを堪能するには3ペダルMTではシフトアップが間に合わないことは明白で、瞬時にシフトアップを終えるDCTのメリットを最大限に発揮しているといえるだろう。標準M4より30kg軽い1600kgの車両重量に対するパワーウェイトレシオは3.2㎏/psで、加速は「速い」というよりも「強い」という表現がふさわしい。


 アクセルオフの際はまるでレーシングエンジンのように素早い回転の落ちかたも感動的だ。その際は、ゴロゴロゴロ!と落雷のような大迫力の炸裂音がエキゾーストパイプから車外だけでなく車室内にも響き渡り、生きていることを実感させてくれる。M4 GTSは何もかもがスバ抜けた刺激を持っていて、非日常さが楽しすぎる。


 そんな刺激的なM4 GTSだが、あえてウィークポイントを挙げるとすれば乗るには気合が必要だということだ。乗り降りしにくいバケットシート、低い車高とエアロパーツが生み出す段差での車体下部の接触の恐怖とそれに対する運転時の配慮、そして低速域でギクシャクするトランスミッション。もちろんハードに硬められたサスペンションがもたらす厳しい乗り心地(突き上げやボディの上下動が大きい)も一切の遠慮は感じられない。日常的に毎日乗るなら、普通のM4のほうが賢い選択である。


 しかし、週に1回程度のペースで乗って飛び切りの刺激を味わいというならば、M4 GTSは最高のパートナーとなってくれるだろう。「時々乗るなら最高、しかし毎日乗るなら疲れる」というのが公道も走れるレーシングマシンであるM4 GTSの結論である。いずれにせよ、性能を突き詰めた究極のMであることは疑いようのない事実だ。


 0-100km/h加速はBMWの量産モデルでは最速となる3.8秒。ニュルブルクリンクの北コースは7分28秒(M4より約30秒速いという)。そんな俊足を誇るM4 GTSの価格はM4クーペ標準車(1154万円)の2倍弱となる1950万円。しかし、そのお金を用意しても現実問題として手に入れるのは難しい。なぜなら世界限定700台で、日本への割り当ては30台のみ。そしてすでに完売しているからだ。


 ちなみに、世界初採用となるウォーターインジェクションの効果を運転中に体感することはない(冷却のためにガソリンを吹く燃料冷却と同様)。それを感じさせるのはエンジン停止後に生じるウォーターポンプの作動音で、これは凍結防止のためにパイプ内の水をタンクへと引き戻していると思われる。タンクの水補充サイクルは走行状態によって異なるので一概には言えないが、サーキット走行であれば500キロ程度で空になり、街乗りであれば2000キロ程度は持つようだ。

■BMW Japan 公式サイト
http://www.bmw.co.jp/ja/index.html


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